DQの部屋

「そうか、きみは、今の話を聞いてどう思った?馬鹿だと・・・。」 「馬鹿だとも、あなたが愚かだとも思いません。」  オルソス遮る様にして言った。

11.降り止まない雨

 レアと出会ってから一年がたったころのことだ。私はいつも以上に緊張し て待ち合わせの場所へ向かった。着いた先でやはり、いつものように彼女は 先に来ていた。この頃になると毎日のように私たちは会っていた。  着いた先でいつもと違う私に気づいたのだろう、彼女は私の元に走ってき た。  そんな彼女を見て、鈍っていた決心がついた。私は、思い切って彼女に告 白をした。  だが、彼女はすぐにうんと、肯いてはくれなかった。  しばらくして彼女は言ったよ。 「私の全部を見ても嫌いにならない?バズゥ?」  と、いつも笑顔を絶やさなかった天使は、そのときばかりは泣きそうに歪 んでいたよ。 私は慎重に肯いた。 「じゃあ、見ててね、バズゥ。」  そう言った後彼女の背中に現れたのは、一対の、クリスタルも遠く及ばな い、薄く、透き通った、綺麗な羽だった。 「分かったでしょう、私は人じゃない。妖精なんだよ。バズゥとは、・・・・・・  違うんだよ。」  うすうす予感はしていた。彼女は人ではないと。  彼女ほどの容姿と美声があれば必ずどこかで噂になっているはずなのだ。  しかし一年間、ついに彼女の噂を聞くことはなかった。さすがにおかしい と思っていたところだったんだ。だからだろう、彼女の羽根を見て、綺麗 だな、と思うことはあっても特に驚きはしなかった。  だけれど。  だけれど、目の前の彼女は今にも消えそうだった。  いつも元気だった彼女が居なかった。  ほうっておけばその羽でどこかへ行ってしまいそうで。  だから私は彼女の手を?まえて言った。 「人間だとか、妖精だとか、そんなことは関係ない、俺が聞きたいのは君自  身の気持ちだ。」  正直な気持ちだった。それ以外浮かばなかったの方が正しかったかもしれ ない。 「でも!」  彼女は思いっきり振りかぶった。  それは拒絶しているかのようにも、迷子になっているかのようにも見えた。 「君自身はどうなんだ!俺のこと、どう思っているんだ。」 「あたしは、・・・・・駄目、言えない、よ。」  俺には彼女が迷っているように見えた。  だからもう一度言った。  ありったけの気持ちを込めて。 「俺は君のことが好きだ。妖精と知った今でも。それは変わらないよ。」 「でも、あたしは・・・。」 「何度でも言う、俺は君が好きだ。」  彼女から本心が聞けるまで何度も繰り返したよ。 「あたしだって、あたしだってバズゥのこと好きだよ。好きに、決まってる  よ。」  そしてようやく彼女は聞かせてくれた。 「あたしも、バズゥのこと、大好きだよ。」  答えをくれた彼女の顔は涙で濡れていた。  それでも美しかった。そう感じたんだ。  ようやく私たちの思いはつながったんだ。  だが、幸せな日々は長くは続かなかった。  その日から3日後のことだ。いつものように彼女を待っていた私の元に大 勢の羽の生えた人がやってきた。  突然のことに驚いている私の向かって、彼らはこう言ったのだ。  もう二度と彼女に、我々の姫に近づくな、と。  無論、私はそんなこと出来ないと答えた。  しかし彼らは私の言葉など意に介さず、逆により強い口調で、姫様に近づ くな、と言い残して去っていった。  それからの一週間、どんなにあの場所で待っても彼女は現れなかった。  きっと外出も止められていたのだと思う。  なぜ分かったのかって?彼らが来た後も、私は毎日あの場所に行き近くの 木々に言葉を残していたんだ。暗号の変わりに人間の文字使って。というの も彼女ら妖精とはどうやら文字が違うようでね、レアには私が教えたぐらい だった。彼女は姫様みたいだったようだから、彼女が知らなければ他の者も 知らないだろうとふんでね。  ある種の賭けだった。  そして一週間後、ついに彼女からの返事が返ってきた!  内容はこうだ。 「明日、町の入り口で待っていてください。レア。」  拙い字だったけれど、それは、確かに、彼女の字だった。  私は踊りそうになるのを抑えるのに必死だった。  森は彼ら妖精の縄張りだから、私が嬉しそうなそぶりを見せれば感づかれ るかもしれないからね。そうすればせっかくの彼女が返事してくれたのが無 駄になってしまう。それは嫌だった。  私は跳ぶように帰りたいのを、これもまた必死に抑えて、努めて平静を装 って帰ったよ。  それからは旅の支度をして、ありったけのお金をかばんに詰めて、夜は興 奮して眠れなかった。明日になるのを今か今かと待ち続けたよ。  それが、本当は、悪夢の始まりだったとも、知らずに。              *  *  次の日、まだ日も出ない頃に私は町の入り口へ向かった。いつも彼女の方 が先に来ていたので今日ぐらいは先に行って待っていようと思ったのだ。  そのうち日が昇った。  だけどなかなか彼女は現れなかった。不思議に思ったが、私が早く着すぎ たのだと思ったよ。彼女は"あさ"と書いていただけだったから後少しすれば 来ると。  しかし、昼になっても彼女は来なかったさすがにおかしいと感じたりもし たが、彼女はどうやらお姫様のようだから、きっと脱出するのに手間取って いるのだと考えた。  だが、とうとう夜になっても、彼女は現れなかった。  そのときのは私はよっぽど興奮していたのだろう、ここらの夜は冷え込む のだが、まったく寒くはなかったよ。それよりも彼女に早く会いたかった。  彼女はきっと来ると信じてその場所で待ち続けた。  そうして彼女を待つこと三日になった日のことだ。  その日は強い雨が降っていた。空にはどんよりとした雲が広がっていたよ。 不吉なくらい暗い日だった。  以前と同じく突然、傘を差していた私の元へ彼らはやってきた。  そして一斉に私を睨み付けた。  私はそれを受けて身がすくんでしまった。  瞳には一様に同じ色がともっていたよ。  それは、憎悪だ。  明らかな、憎悪だ。  彼らは静かだったが、殺気立っていた。  私でもわかるくらい、殺気立っていた。  そのうち彼らは左右に分かれた。  その間から一人の女性が出てきた。  この人がレアの母なのだ、とすぐに思った。  なんとなくだが雰囲気が似ていた。 「貴様が、バズゥとやらか。」  厳かな声だった。静かな怒りが込められた声だった。  その迫力と籠められていた殺気は、周囲にいる妖精が空気に思えてしまう ほどで、私は声すら上げられなかった。 「どうした、答えぬか、人間よ。さあ、早く。」  声が出ない私に苛立ったのか、早口になっていた。  周りの妖精の苛立ちも伝わってきた。 「はい、私がバズゥです。」  そんな様子をなぜか私は冷静に観察しながら名乗った。  とたん、 「そうか。」 「貴様が、貴様がわが娘を誑かしたのだな!!!」  女王の怒りが頂点に達したのだろう、気がつくと私は地面に投げ出されて いた。体中が痛い。  周りの妖精からまたも一斉に殺気を送られてきた。  魔法で攻撃をされたのだと気づいたのは、女王の右手がぼんやりと輝いて いるのを見た後だった。  気づいた後は生きているのが不思議なほど、次々と魔法を打ち込まれた。 「よくも誑かしてくれたな、人間の分際で!!人間の分際でぇ!!!!」  意識を失うことすらできずに嬲られ続けた。  このまま殺される。それほどまでに女王の目は血走っていた。 「このまま殺すのでは飽き足らぬ。」  ようやく攻撃の手を止めた女王は言った。 「貴様には生き地獄を味合わせてやる。わが怒り、とくと思い知るがいい!」  そう言うと女王は踵を返し、来た方向へと飛んでいった。他の妖精もそれ に続いたが、彼らはみな私のことを何らかの方法で攻撃してから去っていっ た。  あるものは手で殴り。  あるものは足で蹴り。  あるものは魔法で攻撃してきた。  後に残された私は痛みで気絶することも出来ず、倒れたまま。  雨が傷にしみた。  だけど生きている。生きていた。              *  *  それから一日たった頃、私は異変に気づいた。  まだ私は倒れたままだったが、頭だけは何とか働いてくれていた。  アレだけ大きな音がしたというのに、町の人間が誰一人入り口の方まで来 なかったのだ。普通、アレだけ大きな音が鳴れば不審に思って団体が来ても おかしくないのに。  胸騒ぎがした。  その頃になってようやく私の体は立てるようになった。体のあちこちが痛 んだがそうも言ってられなかった。体を引きずる様にして町に向かった。  町に入った後も私の不安は消えず、むしろどんどん大きくなっていった。  町の様子はいつもと変わらないのに、なぜだかそれが無性に気に食わなか った。  気に食わなかったが、とりあえず私は家に戻ることにした。  何とかして家にたどり着いた私はまず体を拭くことにした。本当は風呂に 入りたかったが体中傷だらけでしみると思ったのでやめた。  そこでふと気づいた。なぜあんなにも町の様子が気に食わなかったのか。  確かに、町の様子はいつもどおりだった。  あんまりにもいつもどおりののどかな光景で忘れていた。  今外は、雨が降っている。  それなのに、何で。    、、、、、、  何でいつもどおりみんなは外に出ていたのだ。  それから私はまた外に出た。雨でまた体がぬれて傷にしみたが、それより も確認しなければならないことがあった。                    、、、、、、、、、、  外に出た私を待っていたのは、先ほどと何一つ変わらない光景だった。  隣のおばさんも。  よくりんごをくれるおじさんも。  犬のチロも。  誰一人として、身動きひとつしていなかった。  そこに動いているものは私しか居なかった。  ここに来て私はようやく悟った。  私は生きていたのではなく、女王に生かされていたのだと。  これを見せるために生かされたのだと。  何も関係ない人が私のせいで動けなくなっているのを。  雨が、傷にしみた。              *  * 「その日からこの雨は降り続けている、というわけさ。」  バズゥはそう締めくくった。  オルソスは何といっていいのか分からなかった。 「ふぅ、人と話すのは本当に久しぶりだからかな、一息に話してしまったよ。  退屈しなかったかな。」  言いながら彼は自嘲気味に笑った。おそらくは無意識のことだろう。 「退屈ではありませんでした。それより、大切な話をしてくださったのを感  謝したいくらいです。」  本当は話すのもつらいはずだ。  けれど彼は話してくれたのだ。  素直にお礼を言った。 「そうか、きみは、今の話を聞いてどう思った?馬鹿だと・・・。」 「馬鹿だとも、あなたが愚かだとも思いません。」  オルソス遮る様にして言った。  あなたは、今でも彼女を待っているんですね。そう言いそうな口を引き締 めた。  聞かなくても分かることだ。彼の気配を感じたのは町の入り口だったのだ から。  おそらく自分が同じ立場でも、待ち続けただろうから。 「なあ、そういえばまだ君の名前を聞いていなかった。よかったら聞かせて  もらえるか。」  何も話さぬオルソスへ向かってバズゥは尋ねてきた。  オルソスは言われて始めて、まだ自分が名前すら名乗っていないのを思い 出した。 「すみません、わたしはオルソスといいます。」 「そうか、覚えておく。オルソス、頼みがあるんだが、いいかな?」 「なんでしょう?」  尋ね返しながらもオルソスにはおおよその見当がついていた。 「調べてほしいんだ、あの日何が起こっていたのかを。女王が怒っていたわ  けを。あの日の、真実を。」

2008/11/11       またも大暴走。作者の手を離れて勝手に突き進んでいます。       実は前の回と合わせて一つの話だったのですが長すぎたため二      つに分けたという秘話が。       これもひとえにバズゥ大暴走が原因です。       オルソス達そっちのけで話が進んでいます。いいのかなぁ。
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