DQの部屋

「いや〜、やっぱみんなで戦った方が良いですね、ホント。みんなして濡れ  鼠にならなくて済みましたし。」 「いや、全員が体調を崩すわけには行かないからね。その時はヨキをおいて  みんなで傘を差すだろうね。」 「そうね。濡れるのはイヤですもの。」 「ソウデスカ。ソウデスヨネ。」  見事な二人の連携の前にヨキはがっくりと肩を落とした。

10.歌姫との出会い

「いや、やっぱこの方が楽だわ。」  何度目かの戦闘を終えた後ヨキはそう言った。 「この方、とは全員で戦うことかな。」 「この間のがよほどこたえたのね。」 「それは、まあ、そうですね。」  二人から言われヨキは歯切れ悪く答える。 「『口は災いの元』とはよく言ったものです。もう二度とごめんですね、あ  んなことは。」  そういうヨキの表情は明らかに後悔に引きつっている。スノウの言うとお り、やはり堪えていたらしい。 「だいぶ近づいてきたみたいですね。」 「そうなのかい?」  オルソスの確信を持った言葉にサリナスは思わず聞き返した。 「ええ、ほら、少し見えにくいですけど、看板が立っていますから。町に近  づいてきている証拠でしょう。」  言われてオルソスがさしたあたりを見ると確かに、町が近づいたことを示 す看板が立っていた。 「あら、こんなところに看板があったのね。よく分かったわね。」  スノウの言うとおり看板は深い茂みに覆われており、それといわれなけれ ば気づきそうに無いものであった。 「たまたまです。ヨキ、人数分の雨具はあるかな?そろそろ雨が降ってきそ  うなんだけど。」  オルソスの言うようにだんだんと空が暗くなってきていた。 「ああ、あるぜ。レインコートと傘があるけど。」 「傘でいいと思う。看板があるってことはもう町が近いだろうし。」  レインコートはそうでもないのだが、戦闘になれば傘は当然、邪魔になる。  だが、戦闘が終わった直後のこのタイミングでは襲ってくる魔物も居ない だろう。  オルソスはそう判断して、傘を選択した。 「そうだね。私にも傘をくれないかな。」  どうやら、サリナスも同意見の様だ。 「私にもお願い。」  スノウも二人に習う。 「はいはい。」  ヨキは手早く全員に傘を配った。  配り終わったところでヨキの顔に何か冷たいものが当たった。雨が降って きたようだ。 「間一髪だったね。」 「あと少し戦闘が長引いていたら危なかったわ。」 「いや〜、やっぱみんなで戦った方が良いですね、ホント。みんなして濡れ  鼠にならなくて済みましたし。」  確かにヨキ一人で戦っていたのであれば戦闘はまだ続いていただろう。 「いや、全員が体調を崩すわけには行かないからね。その時はヨキをおいて  みんなで傘を差すだろうね。」 「そうね。濡れるのはイヤですもの。」  サリナスの言葉に肯くスノウ。 「ソウデスカ。ソウデスヨネ。」  見事な二人の連携の前にヨキはがっくりと肩を落とした。  その様子にサリナスは苦笑しながら、 「まあ、それだけ君は安心して放っておけるという事だ。今相手している魔  物程度ならば、そう遅れを取る君ではないからね。」 「そう言ってくれるのは嬉しいんですけどね、二人を見てるとついつい自信  が…。ははは。」  この二日、戦い方を戻して全員で戦闘している、とヨキは言ったが、実際 はアリアハンに居た頃と変わらず、オルソス、サリナスの両者がそのほとん どを倒していた。それもあっさりと。ヨキが自信失くすのも無理は無い。 「オルソスは参考にはならないよ、ヨキ。彼は明らかに飛びぬけ過ぎている  からね。比べる相手が悪い。私が知っている中でも五指には入るよ、彼は。  本気を出していない今でも十分過ぎるほどにね。」 「・・・そんなに強いんですか?あいつ。」 「ああ、末恐ろしいとはまさにこのことだろうね。」 「そういうあなただってまだ一度も本気を出していないでしょう、サリナス。」  二人の会話が聞こえていたのか、突然オルソスが割り込んできた。 「おや、聞かれていたのかい。すまないね、勝手に批評なんかしてしまって。」 「いえ、かまいません。それより、門が見えてきました。町に入ったら手分  けして情報を集めましょう。」  本当に気にしていないようで、話をあっさりと打ち切り、用件を手短に伝 えて来た。 「ああ、了解した。」 「では先に行きます。僕は西の方に行きますので。」  そう言うとオルソスはさっさと行ってしまった。 「おお、早いな。もう見えなくなっちまった。」 「さて、私たちも手分けして調べることにしようか。」 「そうですね。」 「ねえ、あそこに人がいるわ。」  スノウのさした先には確かに人がいた。  ただし、誰一人傘を差さずに、だ。  彼らの前には、雨だと言うのに傘も差さずにただただ立ち止まっている人 々がいた。  町に入った後、雨脚はかなり強まっていた。それなのに誰一人傘も差さず また微動だにしない。  異常な光景だった。 「知らずに来たらかなりくるな、こりゃ。」 「逃げ出したというのも、無理ないわね。」  怖くなって逃げ出したという話だったが、確かに、何の前触れも無くこの ような光景を見たら、逃げてしまうのも無理からぬことだろう。  それほど異常な光景だった。  事実、事前に知っていたのにもかかわらず、彼らもまた、しばしの間、呆 然としてしまったのだから。 「いつまでもこうしていても原因は分からない。私たちも手分けしよう。」  呆然としている二人に声をかけたのはサリナスだった。 「え、ええそうね。」 「・・・・・・。」  だが、スノウがすぐに返答したのに対し、ヨキからの返答は無かった。 「ヨキ、どうたんだい?」 「え、いや、なんでもないですよ。それよか先に行ってて貰えません?俺は  もう少しここらを調べてみようかと思うんで。」 「そうか、分かった。では私は向こうのほうを調べよう。」  その表情に何かを感じ取ったのだろう、深くは聞かずサリナスはそう返事 を返し、その場から離れた。 「なら私はこっちね。」  スノウも行った。  そして町の入り口にはヨキだけが残った。      、、、、、、、 「アイツ、これに気づいたってのか?こんなわずかな・・・。」  一人残ったヨキに、返る返事は無く、ただ、雨の音だけが響いていた。              *  * 「もう出てきたらどうですか。そのために、みんなから離れたんですから。」  オルソスは突然立ち止まって、一声発した。 「居るのは分かっているんです。それともこちらから行きましょうか?」  再び問いかける。 「ふう、あなたから隠れることは出来ない様だ。」  言いながら家の影から出てきたのは一人の小柄な老人だった。  きちんと傘も差している。 「で、何用かな。このような辺境の地に。」  オルソスは老人の言葉を聴いた後、静かに、だが、強い口調で訊ねた。            、、、、、、、、、、 「単刀直入に聞きます。この現象は妖精の仕業ですね。」 「!?な、なぜ。」  その瞬間、老人の目が大きく開き、明らかにうろたえ始めた。 「な、何者なんだ、あんた。」 「妖精の仕業なんですね。やはり。」  その様子だけで結論が出たのだろう。今度は聞くのではなく断定した。  オルソスの、その言葉を受けた老人はしばらくの間呆然としていたが、や がて、がっくりと肩を落とし、 「あんたの言うとおり、これは妖精がしていることだ。わたしが愚かだった  ばかりに、な。」  搾り出すように何とかそれだけを言った。 「そうですか。」  オルソスと老人の間に沈黙が流れる。  雨音だけがあたりに響く。  重たい、重たい雨音だ。  老人は肩を落としたまま何もしゃべらない。  二人は初対面だ。  オルソスはそれでも、老人が話しかけてくるのを待っていた。  不思議と確信があった。  やがて、老人が口を開いた。 「ふう、不思議だな。あんたとは初めて会ったと言うのにな。なぜだか全て  を話してもいい気がしてきたよ。ついてきてくれ。家まで案内しよう。長  くなるからな。」  老人はそう言うと歩いていった。オルソスも黙ってついていく。  やがて一軒の家に着いた。二人は言葉も交わさず中へと入った。 「さて、どこから話したものかな。」  そういう老人の顔はどこか懐かしむような、そんな顔をしていた。 「始まりは彼女と出会ってからだった。」 「ここでは森に食料をとりに行くのが当番制になっていてね、偶然、その日  は私が当番だったんだ。その日は少しばかり冒険してやろうと、いつもよ  りも森の奥の方に行ってしまってね。これがよかったのか、いつもより大  収穫だったんだ。」 「だけど帰ろうとしても一向に町までたどり着かない。恥ずかしいことだが  迷ってしまったんだな。幸い、手元には取ってきたばかりの食べ物があっ  たから、飢える事だけは無かったんだが、帰る道が分からない。そんな感  じで二日ほどかな?確か二日だったと思う。さまよっていた私の耳に歌が  聞こえたんだ。」 「歌、ですか。」 「ああ、きれいな声だった。吸い寄せられるように歌が聞こえる方に足が向  いてね。気がつくと開けた場所に出ていた。天使が居ると思ったよ。あま  りのことに何も言うことが出来なかったね。」 「歌が終わると同時に私は思わず拍手をしていたんだ。頭で考えるより先に  体が動いていた。あるんだな、ああいうことは。ともかく、それが彼女と  の出会いだった。」              *  * 「誰?」  先ほどと歌を歌っていたときと同じ、きれいな声で彼女は尋ねてきた。 「私はバズゥ。近くの町に住んでいるんだ。君は?」  頭の中は真っ白だったというのに、自分でも驚くほど自然に声が出た。 「あたし?あたしはレアって言うんだ。」  そう名乗って微笑んだ彼女は綺麗だった。  その表情を見てドキッとした。胸が高鳴っていくのを感じたんだ。 「レア、さんかいい名前だな。」 「えへへ、バズゥもそう思う?嬉しいな。あたしもね、自分の名前、気に入  っているんだ。」  いきなり呼び捨てだったがイヤではなかった。むしろ笑っている彼女に見 とれていたくらいだ。 「なあ、レアさん。」 「レ、ア。別に呼び捨てでいいよ。むしろ呼び捨てで呼んでほしいな。あた  しだってさっきバズゥのこと呼び捨てにしたしさ。ね。」  言いながら彼女は私の手を握ってきた。 「ああ。分かったよ、レア。」  とっさのことでそう返すのが精一杯だった。もう頭の中はパニックだった。  それから何も言わない自分がおかしかったのだろう、彼女がまた話しかけ てきた。 「ねえどうしたのバズゥ。顔が赤いよ。まるでリンゴみたい。風邪でも引い  てるの?」  言いながら彼女は顔を近づけてきた。ようやくそのことに気づいた私はあ わてて彼女から離れながら、必死になって要件を告げた。良くぞ舌が回って くれたものだと思う。 「なななんでもない、なんでもない。そ、それより町への出方を知らないか ?  どうやら迷ってしまったようなんだ。」 「?どうしたの急に離れたりして?」  そんな私を見て彼女は不思議に思ったのか、一瞬首を傾げたが、 「ま、いっか。えとね、ん〜。いいよ案内してあげる。バズゥ困っているみ  たいだしね。助けてあげる。」  すぐにそう言ってくれた。  それから彼女の案内で私は無事に街に戻ることが出来た。  だけどそれは同時に彼女と別れることも意味していた。  それが嫌で、嫌で、私はなかなかその場から動けずにいた。  そんな私の内心を知ってか知らずか、彼女は言ってくれたのだ。 「また会おうね、バズゥ。」  別れ際の彼女のその一言がとても嬉しかった。  それからは森に行くたびに彼女と会ったよ。彼女の方も私に興味を持って くれたようだった。 すぐに打ち解けた私たちは、やがて次の約束をするようになった。 待ち合わせに使ったのは初めて出会ったあの場所だった。  二人でノルマ分の木の実を取って、その後は取り留めのない話に興じた。 どんな話でも彼女には新鮮だったようで、いつも笑顔で聞いてくれた。  実に楽しかったよ。間違いなく幸せな日々だった。

2008/10/21       ふう、勢いだけでかいてしまった。ケド納得の行く出来にはな      りました。       いかがでしょうか。今回の題材は禁断の恋です。なんかまた初      登場のキャラが暴走してくれちゃってます。       勝手に動いてくれるのを喜ぶべきなのでしょうが、正直複雑で      す。       今回はかなり早くに更新できました。このペースを保てればい      いんですがおそらく無理なんだろうなぁ。       最後に、ここまで読んでくれた皆様に深く感謝を述べますとと      もに、これからもご愛読のほどよろしくお願いします。
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