DQの部屋

「主人、この近くには妖精が住んでいるのですか?」 「ここからずっと北の森に住んでるって言う伝説がこの村にはあるんだよ。  だから不思議なことがあったら、妖精に化かされた、って言うのさ。」 「そうなんですか。サリナス、部屋とっておいて。」

眠っているまち

「ぜぇぜぇ、ま、まだ見えないのか、カザーブは?」  ヨキは槍を杖の代わりにしながら、前方を歩くオルソスへ話しかけた。 「もう少しで着くと思うよ、門が見えてきた。」  見ると、確かにかすかだが前に門が見えてきていた。 「そ、そうか。はぁ、はぁ。」  なんとか前へと登りながら、それだけを口にした。  そんなヨキを見かねて、サリナスが話しかけた。 「大丈夫かい、ヨキ。ずいぶんと疲れているようだが?」 「へ、いき、ですよ。後、もう少し、ですし。はぁ、はぁ。」 「そうかい、無理はするなよ。」  そういい残してサリナスは再び後ろの方についた。  横を見ると、スノウも肩で息をしている。 「姐さん、やっぱりあの二人はバケモンデスネ。」 「今更のことよ、ヨキ。」 「ソウデスネ。」  ロマリアを出て一ヶ月、一行はカザーブに向かって山道を登っていた。 「ヨキ。」 「はぁぁ、おう。」  名前を呼ばれたヨキは仕方なく、本当に仕方なく、武器を構えた。 「ったく、あと少しだってのによ。出てくるんじゃねえ、よ!」  気合一閃、するどく槍を振りぬいた。  ガキン  つもりだった。 「しまった。またやっちまった。」  ヨキの槍はきれいに樹木にめり込んでいた。 「くっ。」  槍を引っこ抜きながらうまくキラービーの針をかわす。  そう、山の木々に槍が引っかかって薙ぐ、払うといった動作がしづらいの だ。自然、突きが攻撃の主力となったのだが、 「ていっ、ってまた外れた。」  そもそも、ヨキは突きがあまり得意ではなかった。 「はぁぁあ。」  だが攻撃をしなければいつまでも魔物は減ってくれはしない。  ようやく一匹しとめた。 「ヨキ、まだ無駄がある、もっと神経を研ぎ澄まして。」  サリナスがアドバイスを飛ばす。 「右から二匹来てるわ。」 「後からも一匹。」  ちなみに、ほかの三人は全然戦闘に参加していなかった。              *  * 「ここがカザーブの村。」 「のどかな所でしょう。」 「ええ。そうですね。」  目の前にはのどかな風景が広がっていた。  向こうからはかすかに湯気が立ち上っている。 「ひぃひぃ、よ、ようやくついたぜ。」  ヨキがもう立つのもやっとという感じで、槍に寄りかかりながら、こちら に向かって来ていた。 「ヨキが追いついてきたようだね。」 「ヨキ、大丈夫?」 「いや、もう駄目。限界、今日はここで休もうぜ。」  言いながら座り込んだ。  オルソスは、そんなもう限界です、といった様子にあきれながら、手を差 し出した。 「ならあんなこと言わなきゃよかったのに。んっ。」 「う、まあ、うん、始めて、はぁ、四日、ぐらいで、はぁ、言わん方が、はぁ、  よかったと、はぁ、思った。」  切れ切れになりながら後悔してますといった感じで言っていた。実際に後 悔しているが。 「でもここまで一人で戦い抜いて見せたじゃないか。十分君はすごいよ。」 「ええ、おかげで楽できたわ。」  その様子を見ながら、サリナスとスノウは素直に賛辞を送った。 「あはは、もうこりごりですよ。こんなのは。今の俺じゃ、厳しいです。」  二人の言葉に、ヨキは乾いた笑いを浮かべるしかなかった。 「さて、そんなヨキのために宿に案内するとしようか。こっちだ。」  サリナスが慣れた様子で一行を宿に案内していく。  宿についた時、奥の方から怒鳴り声が聞こえてきた。 「本当なんだって、信じてくれよ。」 「はいはい、どうせ妖精にでも化かされたんだろう。」 「違う、何度言ったら分かるんだ?だ、か、ら、嘘はついてないって。」  恰幅のいい男が宿の主人であろう男に怒鳴っていた。 「こっちこそ何度も言っているだろ?あんたは妖精にでも化かされたんだよ。  分かったらさっさと部屋に行ってくんな。後ろ見てみな、次のお客さんが  来たんだ。話はせめてその後にしてくんな。」  だが、亭主はうんざりといった様子で男をあしらうと、後ろを見るように 促した。  男はそこで始めて後ろにいる者たちに気づいたようだ。 「ん、ああ、すまない、どうぞ。」  さっきまでの剣幕はどうしたのか、意外に冷静な声で男はオルソスたちに 譲り、部屋にむかった。 「主人、この近くには妖精が住んでいるのですか?」 「ここからずっと北の森に住んでるって言う伝説がこの村にはあるんだよ。  だから不思議なことがあったら、妖精に化かされた、って言うのさ。」 「そうなんですか。サリナス、部屋とっておいて。」 「ああ、分かった。」 「オル、お前は?」 「さっきの人に話を聞いてくる。」 「え?お、おい。」  だが、オルソスはヨキが止める前にさっさと行ってしまっていた。さすが に早い。 「まだ部屋は空いてますか?」 「ええ部屋はまだ空いておりますよ。」  サリナスは返事を返すと早速主人と話し始めた。              *  * 「おじさん。」  オルソスは扉の前で先ほどの男に追いついた。 「ん、何だ。」 「さっきの話、詳しく聞かせてくれないかな?」  オルソスは人懐っこい顔をしてたずねた。 「さっきの話とは?」 「宿の人と話していたこと。どんな話ななんですか?」 「かまわんが、笑うなよ。」 「笑いませんよ。」  人懐っこい笑顔で言った。 「立ち話もなんだ。部屋に入りな、そこで話そう。」  そう言うと男は部屋の中へ入っていった。 「まあそこの椅子にでも座りな。」 「それでどんな話なのですか?」  オルソスは椅子に腰掛けながらたずねた。  「ここから2、3日ほど北にある町の話なんだがな。町の人間が立ったまま  眠っているんだ。」  男はベッドに腰掛けた後、話し始めた。 「立ったまま眠っている?」  おかしなことを言ったので、思わず聞き返していた。 「ああそうだ、なんか雨なのにな、外に出ている連中がいたんだ。んで、雨  ですよって声かけたんだけど、返事が無いんだよ。それで前まで行ったら  かすかに息はしてたんだ。」 「それで眠っていると?」 「ああ、そう言うのが適切かどうかは分からんが、他に言いようがねぇんで  な。それで、さすがに不気味になってその場所から離れたんでぇ。だけど  よ、よくよく周りを見ると、みんながみんな同じに見えてよ、怖くなって  逃げ出したんだよ。」  おそらくはそのときのことを思い出したのだろう、男の体が小刻みに震え ている。 「ちなみにいまだに夢に出て来るんだ。」  その様子には演技のかけらも無かった。 「そうだったのですか。」  「あんたは、信じてくれんのか。こんな荒唐無稽な話を。」 「ええ、あなたが私にうそをつくメリットがありませんし、その体の震えは  見たところ本物ですから。それに、そんなうそをわざわざ考えてまで人に  言うようでは商人は務まらないでしょう?」 「おぉ、ありがとう、あんただけだよ、こんな話を信じてくれたのは。この  村の連中は誰一人信じてくれなくてな。」  よほどたまっていたのだろう、男はうんうん頷きながら言った。 「よし、俺はあんたが気に入った。あんたの名前を聞いてもいいか?俺の名  前は、テアンド、テアンド・タルウードだ。」  男は大きな声でそう名乗った。 「私は、オルソスといいます。」  あわせてオルソスも名乗る。 「オルソス、か。いい名前だ。憶えておく。オルソスのおかげでずいぶんと  すっきりした。胸のつかえが取れたよ。今夜はぐっすり眠れそうだ。」  そういう男、テアンドの表情は確かに、話す前より幾分すっきりとしてい た。少しだけにやけている気もする。 「こちらこそ、ありがとうございます。早速明日から向かってみます。」 「そうかい。俺はもう戻らんといかんからな。アッサラームによるようだっ  たら結果を知らせてくれ。いや、結果何ざどうでもいいから、来てくれ。  タルウード商会っていったら町の人間は大抵知ってっからよ。」 「はい、分かりました。」 「それはそうとなんで俺が商人と思ったんだ。名前だってさっきいたばかり  なのに。」  そう、さっきは流したが目の前の少年は、名乗っても居ないのに自分のこ とを商人と言ったのだ。 「簡単なことですよ。部屋にある大きすぎる荷物を見れば誰だって分かるこ  とです。そんな大きな荷物持った旅人なんて、商人くらいしか居ません。」  町を一歩出れば身の安全など無い今の世の中、大きな荷物は目立つ。その 意味でも、旅をするならなるべく軽装かつ少人数、もしくは屈強な用心棒を 雇うといったとことは、もはや常識ともいえる。 「まあ、言われてみればそうだな。がっはっは。」  オルソスの答えに満足したのかテアンドは豪快に笑った。 「では、これで。」 「おお、元気でな。といってもあんたなら大丈夫そうだがな。」  出て行くオルソスに向かってテアンドはそう言った。 「そうか、あいつがオルソスか。なるほどな。」              *  * 「お待たせ、ヨキ。」  部屋を出るなり、壁に寄りかかったヨキに声をかけた。 「何だ、気づいてたのか。」  ヨキは言いながら寄りかかっていた体を起こした。 「うん。」 「ちなみにいつから気づいてたんだ。」 「テアンドさんが雨の話をしていたあたりからかな。」 「ほぼ最初じゃねえか。つまり俺が来ていたのに気づいておきなら話しを続  けていたんだな。」 「まあ、そうなるね。さあ、早く部屋に行こう。」 「そうだな。今のことを早く二人に了解とらないとな。」  そう言ってからヨキは部屋に向かって歩き出した。 「ヨキはいいの?」  ヨキを入れればサリナスとスノウが居る。合わせて三人のはずだ。なのに ヨキは二人と言った。それは良いと言っているも同じことだ。 「どうせ言ってもきかんだろう、お前は。俺らが行かん、と言っても一人で 行く気だろ?」 「それは…。」  ヨキの指摘に言葉を失う。それはそのことが正しいと言っているのも同じ だった。 「それに、俺はお前の旅に付いて行くつもりだからな。どういう道をたどろ  うがかまわねえよ。よっぽどのことがない限りはな。」  ありがとう、思わず口をつきにつきそうなその言葉を、オルソスは飲み込 んだ。  言うのは簡単だった。  しかし、隠し事をしているのに言うのは違う気がしたのだった。  おそらくは誰も知らないこのことを話さないまま言うのは。     、、、  そのよほどに該当することを。 「さ、早く部屋に行こう。ヨキ、部屋はどんなだった?」  だから口にしたのは別のことだった。 「おう、ここだ。なかなか広くていい部屋だぜ。ほら。」 「なかなか広い部屋ですね。」 「そうだろう、ここは湯治場としても有名だからね。後で入るだろうけど、  ここの温泉は広くて気持ちがいい。」 「そうなんですか。」 「あれ?姐さんは?」 「スノウかい。彼女ならもう温泉にむかったよ。君たちも行くかい?」 「行きます!」  よきはそれに一も二も無く飛びついた。一人ずっと戦ってたのと山道のせ いで、いい加減体の方が限界だ。 「オルも行くだろ。」 「サリナス。」 「なにかな。」 「明日から北の方に向かおうと思うのですが。」 「別にかまわないけれど、先ほどの方と関係があるのかい。」 「はい、詳しいことはスノウを交えてから話しますが。」  「分かった。さあいこうヨキ、こっちだ。」 「え、あ、はい。」  またもスルーされていじけていたヨキを連れて、サリナスは部屋から出て 行った。 「やっぱり即答した。」  誰も居なくなった部屋でオルソスはつぶやいた。  それからいつものように笛を吹こうと手に取ろうとしたが、代わりに剣を 取って外へ向かった。

2008/10/12       よ、ようやく書き終わった。今回またも間が空いてしまいまし      た。ごめんなさい。なんかいろいろ難しく考えすぎてしまい、当      初考えていた話とはまた別のものになってしまいました。知らな      いうちに新しい登場人物が増えていますし。気がつくと増えてい      るんですよね。その方が話を考えやすいので。       このままだと話の数だけ登場人物が出てきそうですね。ははは      って笑い事じゃないですね。
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