DQの部屋


「何かしら、ヨキ。」 「い、イエナンデモナイデス。」 「そう、なんでもない顔じゃ、ないわよ。」 「いえ、何でも無いです本当に。」  ヨキは必死になって弁解した。

ロマリア

7.見えた旗は?

「気持ち悪い。」 「同感。結構きついなこれ。」  オルソス、ヨキの二人は初めての旅の扉の感覚に酔っていた。  例えるなら地震がおきている船の上にいた後、祖父に投げ飛ばされ続けて いるかのような。兄の言葉を聞き続けているかのような。  いや、意味が分からない。  思考に支障が出るほど、気持ちが悪かった。 「慣れるまでは仕方ないさ。」 「私たちもなれるまでは同じような感じだったわ。」  対するサリナス、スノウは大したことがなかったようだ。やはり慣れてい るのだろう。 「平気そうですね。」  ヨキは何とか声を出した。 「最初のうちは辛かったさ。」 「嘘はいけないわよ、サリナス。あなたは最初から平気だったじゃない。」 「いや、あのときが初めてじゃなかっただけさ。」 「二回目ならそう変わらないわよ。」 「そうだったかな?」  どうやらサリナスの方はすぐに慣れた様だ。 「とりあえず外に出よう。その方がいくらから楽になるだろう。」  サリナスの言葉に二人はうなづいた。どうやらもう声も出せないようだ。 「あら、城が見えるわ。」  外に出た一行の目に映ったのは大きな町と城だった。城の頂上には国旗で あろう旗が、風になびかれている。 「ふむ、隼か。となるとロマリアかな。」  ロマリア王国。隼を象徴とするイシスに並ぶ最古の王国であり、文化の中 心として知られている。またアリアハンの良き盟友でもあった。 「この距離なら一時間といったところかな。」 「行きましょう、宿に着いてからの方がゆっくり休めるわ。」 「それに早くしないと日も暮れそうだ。」  二人は黙ってうなづいた。  夜になると魔物が凶暴になり強力になる。これは常識だ。  多少強力になったところで敵ではないだろうが、今の状態での戦闘はごめ んだった。  幸い、一度も戦闘することなく町に着いたが、すでに日が暮れていた。 「よ、ようやく着いた。」  町に着いたヨキは肩で息しながら何とか声を出した。 「と、とりあえず、宿を探そう。」  オルソスはまだ気持ちが悪い様で一言も発していない。 「宿か。私が決めてもよいかな?」 「なあオル、ってあれオルは?」  いつの間にかオルソスの姿が消えていた。  一言も喋らないのではなくてそこに居なかったようだ。 「アイツどこにいった。」  ヨキはあわてて周囲を見渡した。  着いてすぐにはぐれたのでは、洒落にならない。 「あそこにいるのがそうじゃないかな。」 「おっ、いたいた。」  サリナスの指した先には子供と一緒にいるオルソスがいた。 「大丈夫?」  どうやら転んだ子供を助け起こしているようだ。 「うん平気だよ兄ちゃん。」 「平気?ならよかった。」  向こうのほうから慌てた女の人が走ってきた。 「ああここにいた。メル探したわよ。」 「あ、お母さん。」  どうやら母親のようだ。 「すみません、この子が迷惑をかけてしまったみたいで。ほらお姉ちゃんに  お礼は言ったの?」  勘違いされていた。 「うん、言ったよ。でもおかあさん。」 「なに?」 「この人お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだよ。」 「え。」  母親は、このコなに言っているの、といった顔をしている。 「くくくくっ。」  ヨキは笑いを隠そうともしていない。 「あっははははは!おもしれ〜。」   むしろ思いっきり笑っていた。 「本当だよ。ねえ兄ちゃん。」 「うん。」 「ああ、すみません。」 「いえ、慣れていますからお気になさらず。」  実際、小さなころから女に間違われることの多かったオルソスには見慣れ た反応だった。 「本当にすみませんでした。」 「いえいいですよ、それよりも聞きたいことがあるんですが。」 「ええ、どうしま・・・、あら。」  女性は言葉は途中で切れた。何か珍しいものを見たかのような表情をして いる。いや、どちらかというと驚いた顔といったところか。  その視線の先には、 「お久しぶりです。セリアさん。」  サリナスがいた。 「あーサリナスのお兄ちゃんだぁ。」  見ればメルはそっちの方に駆けていっている。 「ああ、元気にしていたかい、メル。」 「うん。」 「大きくなったわね。メル。」 「スノウお姉ちゃんも久しぶり。」 「ええ、久しぶりね。」  二人ともメルと呼ばれた子供と旧知のように挨拶を交わしていた。 「えっと??」  ヨキは話についていけていませんという顔をした。いきなりのことだから 仕方のないことだ。 オルソスも表情に出していないものの、内心ではヨキ と似たようなものだ。 「ああ、すまない。知り合いだったものでね。」  サリナスはそんな二人を見てようやく、話についてきていないことに気が ついたようだ。 「ちょうどいい、紹介しよう。彼女達は今夜、お世話になろうと思っていた  宿ラウンドの女将、セリアさんと、その娘のメルだ。」 「セリアです。」 「メルだよ!」  セリアは上品に、メルは元気いっぱいに挨拶した。 「セリアさん、メル。こちらは今の旅の仲間のヨキとオルソスだ。」 「はじめまして、オルソスといいます。」 「どうも、はじめましてヨキです。」 「よろしくお願いします。」 「よろしく、オル兄ちゃん、ヨキ兄ちゃん。」 「セリアさん、部屋空いているかな?」  仲間の紹介を終え、サリナスは早速交渉に入った。 「ええ、後二つ空いています。泊まっていかれますか?」  タイミングよく残っていたようだ。 「お願いします。」 「わぁーい!サリナス兄ちゃん、また旅の話を聞かせてくれる?」 「ああ、いいとも。」  メルはサリナスが泊まると聞いて、体いっぱいに喜んだ。よっぽど楽しみ なのだろう、いつのまにか、早足になっている。 「早く早くー。」  早足どころでなく走り出した。 「ごめんなさい、サリナスさんもお疲れでしょうに。」 「いえ、かまいませんよ。」  二人は話しながら先に進んでいった。              *  * 「あ、あのスノウ、姉、さん。」  空気に耐えられなくなったのかようやくヨキがスノウに声をかけた。なぜ だか姉さんとつけて。 「声かけない方が、いやもう遅いね。僕は知らないよ。」  対して、オルソスは少し呆れた、いや、諦めた声色だった。その後、前に 追いつくつもりなのか、足を速めてそそくさとその場から離れた。 「何かしら、ヨキ。」  スノウは笑って振り向いた。 「い、イエナンデモナイデス。」  返す言葉はなぜか片言だ。 「そう、なんでもない顔じゃ、ないわよ。」 「いえ、何でも無いです本当に。」  ヨキは必死になって弁解した。 「?まあいいわ。」  顔は確かに笑っている。  笑っているのだが、目は笑っていなかった。  恐ろしく不機嫌だった。  いや、理由は分かる。  分かるが、分かりたくなかった。 (実は何でもあります、なんていえるわけねえよ。こんなときに勘がよくな くてもいいじゃねえか。マジに怖ええ。) 「どうしたの?いきましょう。」 「は、はいあねさん。」  あまりの怖さに思わずスノウのことを姉さんと呼んでいた。 「どうしたの、突然姉さんなんて。」 「いえ、これからは姉さんと呼ばさせて頂きます。」  とてもあなたが怖いからなんて言えない。 「?まあいいわ。うふふ。」  そういうと不思議そうにしながらも、スノウはさっさと行ってしまった。  背後にどす黒いオーラを振り向きながら。 「僕は止めようとしたんだけどね。」  スノウと入れ替わるようにオルソスが声をかけた。 「オル、お前今までどこに?」 「近くにはいたよ。」  どうやら避難していたようだった。 「気配は消していたけどね。」  しかもご丁寧に気配まで消していた。 「何で一人にするんだよ、心細かったんだぞ。」  半分涙目だった。 「ふう、僕だってあれは避けたいよ。ヨキだって逆の立場ならそうしていた  でしょ。」 「うぐ、ま、まあそう、だけどよ。」  何も言い返せない。確かに逆の立場なら自分も逃げる。 「これ以上は馬に蹴られるよ。」 「わかってる、もう聞かねえよ。」  さすがにうんざりしたようだ。  これ以上つついたら何が出てくるか分からない。 「それに、あの様子じゃ自分じゃ気づいてないみたいだしな。」 「分かるの?」 「ああ、似たようなのなら、昔から見ているからな。」 「誰のこと?」 「分からないならいいさ。さあ、早くいかねえと置いてかれちまうな。」  ヨキはそれだけ言って先に行った。              *  *  夜、食事の後オルソスは一人、部屋にいた。  サリナスはメルにせがまれて旅の話しをしに言ったし、ヨキ散歩に出ると いったきりまだ戻っていない。  考えているのは仲間のことだ。  ランシールでのうわさは実はアリアハンにまで届いていた。かなりの人気 者だったと聞いてる。それも男女問わずだ。若い女性の間では水面下の戦争 が凄かったと聞く。  船の人から聞いた話だとそれはそれは恐ろしく、時にはヨキ自身が引いて いたほどだったという。  かといって男にも嫌われるでもなく、引っ張りだこだった様だ。あくまで 噂だったが、アリアハンに居た頃とそう変わらないからおそらくは真実だろ う。  さらにはランシールの神官達には将来を有望視されていたようで、修行の 後にはランシールにそのまま残らないか、という話まであったようだ。  そこまで考えてふと思う。  付いて来てもらって本当によかったのだろうか、と。  口には出さないけれど、ヨキには感謝している。  なんだかんだで、サリナスやスノウにどうしても普通に接することができ ないのに一緒に旅をすることができるのは、ヨキがそのあたりをうまくして いてくれるからだ。  本当に人付き合いがうまい。自分とは違う、まったく変わっていない。  だからその一方でこう思ってしまうのだ。  そのまま修行してランシールなりアリアハンなり、どこかの神官になった 方が世の中のためになり、ヨキ自身、平和に暮らせたのではないだろうかと。  自分は10年前に戦うと、そう決めたのだから。危険なのは自分だけでいい。  それにあの人との約束のこともある。  だけどヨキは違う。戦う必要なんて無かった。行かないという選択だって あった。  きっと誰からも愛され、頼りにされる存在となっていたに違いない。  こんなことを言ったら怒るに決まっているけど、そう思わずには居られな いのだ。  そして、あの二人は何者だろうか。  こういっては悪いがあの二人の間には、一緒に旅をしているとは思えない ほどの実力差がある。スノウが弱いわけではなく彼女も平均的なレベルでは あるのだが、サリナスはひょっとしたら先生、いや祖父よりも強いかもしれ ない。とにかく強さに底が見えない。  それになんだかこちらの内面を見透かしているかのような、そんな雰囲気 も持っている。  スノウはスノウで、なぜだか国家機密を知りすぎている。サリナスもそれ が当然というような感じがする。  そんなことを考えながらオルソスはゆっくりと眠りについた。

2008/06/17       いや〜やっと書き終わりました。今回はかなりグダグダですね。       スノウの嫉妬を書こうとしたらこのような結果に。       すいません。思いつかなかったんです。       というかいつの間にか嫉妬していたんだ。       セリアさんが出てきたあたりから調子が崩れました。       次回からは普通に戻るはず。
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