「寝てやがる。」 「うん、寝てるね。」 「zzz〜、zzz〜。」  オルソス達が塔の最上階で見た賢者はベットで眠りこけていた。

5.賢者ナジミ

「起きろ、この糞ジジイ!!」  だが、ヨキの振り下ろしたこぶしは寝返りを打った賢者にかわされた。 「くそ、このこの。」  その後も幾度となく殴…、もとい叩き起こそうとするが、 「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、はぁ。」  すべてかわされた。 「だぁぁぁぁ〜。」  ヨキの攻撃。  しかしナジミは寝返りを打った。  ヨキの攻撃は外れた。 「なんじゃい。騒がしいのう。」  ナジミは目を覚ました。 「のわぁぁぁぁ〜。」 「まったく久しぶりにおうたと思ったら、何をしておるんじゃ、お主は。」 「ねぼすけなあんたを起こそうと思ってな。」 「変わらんのう、お主は。ほっほっほ。」 「じじいもな。」  そして笑いあう二人。  サリナスとスノウはその光景をただ見ているしかなかった。  サリナスの中で、高潔な賢者、という、会う前から楽しみにしていたイメ ージが砂のように吹き飛んだ。  そこにいるのはただのどこにでもいる爺だった。              *  * 「さて、それでは、わしも役目を果たすとしようかの。」  そういってナジミが取り出したのは、一本の鍵だった。 「まずはこいつとこれを渡しておこうかの。」 「これは?」 「世界地図と盗賊の鍵じゃ。受け取っておくがよい。なぁに、バコタの奴め が使っておったのを貰っておいたのじゃ。ほっほっほ。」 「は、はぁ。」  オルソスは取り敢えず貰っておくことにした。 「その鍵を使ってまずは、魔法の玉を受け取りに行くがよい。」 「イヤマテジジイ。」 「なんじゃヨキ、話の腰を折り折って。」 「あんたが持ってるんじゃないのかよ。」 「うーむ、そうしてもよかったんじゃがの。わしも話すことが多いでの。」 「めんどくさいと。」 「うむ。」  その瞬間、ヨキの中で何かが(明らかに怒り)がはじけた。 「くぉの糞ジジイー。だったらあんたがあそこで待ってりゃよかっただろう  がー。」  だが、ヨキに答えたナジミの声は今までとうって変わっていた。 「ヨキよ、主は忘れたのかな?わしの力はここでなくば使えぬということを」 「あ。」 「だから言ったじゃろ、話すことが多いと。」 「すみません。」 「さて、ヨキのアホめに話の腰を折られてしもうたが。続きを話すとしよう  かの。」  ヨキもその言葉に居住まいを正した。 「ネグロゴンドに行く方法じゃが、不死鳥ラーミアが封じられし六つのオー  ブを探すがよい。先ほど渡した鍵はオーブを探すのに役立てるがよい。」 「神の鳥、ラーミア…。神話の時代に世界を旅したと言われるルビスの使い。」 「その通りじゃよ、オルソス。ラーミアの力なくばネグロゴンドには近づけ  ぬ。断崖絶壁となっておる今となってはな。」 「わかりました。まずはオーブを。」 「うむ、今のが当面の旅の指針となるじゃろう。今からがこの『夢見の部屋』  で行う我が夢見の話じゃ。戦士サリナスよ。」 「は、はい。」 「お主はこの旅で探し物を見つけるじゃろう。同時に悲しい真実も知ること  になる。そしてお主らの旅は終わりを迎えることになる。長い間逃げ続け  てきたお主らの旅が。案ずるな、お主の選択は間違っておらぬよ。感謝さ  れこそしてもな。」 「……なっ!?」 「本当の名は伏せておこうか、魔法使いスノウよ、お主はこのたびの中で再  会を果たすじゃろう。長きにわたって望んだ肉親との再会をな。そして新  たな旅が始まるじゃろう。」 「…!?」 「神官ヨキ、お主は絶望の果てに力を求めるじゃろう。じゃがその力はお主  の力にはなりえぬ。  己を見失うな。さすればお主は真に望む力を手にするじゃろう。友を助け  る力を。」 「……。」 「最後に、勇者オルソスと行きたい所じゃが、済まぬが他の者は部屋の外に  出ておいてはくれぬかな?」  その口調には有無を言わせぬ迫力があった。 「分かった。出ておくよ。行こうぜサリナス、スノウ。」 「あ、ああ。」 「また後でな、オル。」 「うん、ありがとう、ヨキ。」  扉が閉じ、三人は部屋を出た。              *  * 「驚いたか、サリナス。」 「ああ、あれが夢見、か。」 「そう、つっても、実際に聞くのは今日が初めてだったりするんだけどな。」 「そうなのか。」  それは少しだけ意外な気がした。あの様子では何度も会っているはずだろ うに。 「さっき爺さんが言ってただろ、夢見の部屋って。」 「ああそういうことか。」 「そ、何でもあの部屋の中でしか夢見を行えないんだとよ。」 「なるほど。」  ようやく合点がいった。つまり、 「夢見を聞かせるつもりでここに呼んだらしいな爺さんは。」 「そうみたいだな。」  もはや自分たちの名前を知っていたことなど問うまい。名前どころかもっ と深いところまで知っているに違いないあの言葉。やはり夢見の賢者は伊達 ではないということか。 「それにしてもわざわざ俺たちを追い出して何を聞かせるつもりなんだろう  な、あの爺さんは。」 「さあな。それを私に聞くのかい、ヨキ。ナジミ様については君のほうが詳  しいだろう?」 「うーん、爺さん、肝心なところはいつもはぐらかしてたからなぁ。深いと  ころは俺もよく分からないんすよ。」  そうなのだ。肝心なことはいつもはぐらかしてきたナジミが、今日初めて  核心に触れる発言をするのだろう。だからこそ自分たちを、わざわざ追い 出したのだろう。 「おそらく話すのは、オル次第ってことなんでしょうよ。今からの夢見は。」 「そういうことだろうね。」 「しかし何を聞かされ、何を思うんでしょうね。私たちの勇者様は。」  そういってスノウは扉を見た。ナジミとオルソスのいる部屋を。              *  * 「さて、勇者オルソスよ、今から話すこと、聞かなくても良いのじゃが…。」  一言言って、ナジミはオルソスのほうを見た。 「聞くだけ無駄じゃったな。さてさて、では話すとしようかの。お主の夢見  を。」 「はい。」 「お主はこの旅で様々な出会いを体験するじゃろう。別れも経験するじゃろ  う。そして、多くの真実に出会うじゃろう。その真実はそのときのおぬし  には乗り越えられぬものとなろう。重圧にもなろう。じゃが、おぬしには  信頼しても良い味方がおる。すぐそばにな。抱えられぬ重荷なら分けても  良い。おぬし一人が背負う必要はない。」  ナジミはいったん言葉を切った。 「あやつの事を気にしておることは分かっておる。ヨキも気づいておるよ。」 「ですが……。」 「お主が何を思うておるか、本当は一人で行くつもりだったのじゃろう。父  のように。」  オルソスはばつが悪そうに目をそらした。 「確かにお主にはそれができるじゃろうのう。それだけお主は自らを鍛えて  きたからのう。」  気まずい沈黙が流れる。やはりこの老人にはお見通しなのかもしれない。 「少し話が逸れたのう。続きを話すとしようか。ふむ。」 「お主が出会う真実の中には知らぬほうが良かったものも含まれる。しかし  逸れこそが、あやつとの約束を果たす鍵となる。それがどんなに悲しい答  えだとしてものう。そのとき新たな選択を迫られるのはおそらくお主だけ  ではない。信じることじゃの、友をな。そしてお主には選択の余地はない。」  オルソスはここまでを黙って聞いた。 「これがわしの夢見じゃ。」 「まだ。」 「ん?」 「未だあるのではないですか。もっと、そう具体的な何かが。」 「それはお主が旅の中で見つけるべきものじゃよ、仲間と一緒にな。」 「ならばなぜみんなを部屋から出したんです。」  再び沈黙が部屋の中を支配する。 「止めじゃ。」 「は?」 「本当は言うつもりじゃったがの、止めるわい。今のお主には重過ぎるから  の。」 「な!?」 「さあ、皆の元へ行くが良い。お主の旅は始まったばかりじゃからの。」 「ナジミ様?ナジ…。」  ナジミはそう言うとオルソスを部屋から追い出した。 「ふう。」  ナジミは誰もいなくなった部屋で一息ついた。 「覚悟ができておらんのはわしの方じゃのう。」              *  * 「終わったか?オル。」 「うん、戻ろうレーベに。」 「そうだな。ってまたこの塔を通るのか。」 「いや、帰りはルーラを使おうと思う、スノウ。」 「何かしら?」  突然オルソスはスノウへ話を振った。 「ルーラ使ってくれないかな?使えるだろう。」 「ええ、それではみんな近くに来てくれないかしら。」  スノウの周りに全員が集まる。 「いいわね、風の精霊よ、我等を彼の地に運びたまえ、ルーラ!」  スノウが詠唱を終えると同時に、光が彼らを包んだ。 「着いたわ。」  ヨキの目に飛び込んできた(目を閉じてた)のは見慣れた故郷の姿だった。 「おおっ、これがルーラか。噂には聞いていたけど便利な魔法だな。」 「ヨキはこれが初体験かい。」  驚いているヨキに話しかけるサリナス。 「ええ、ランシールにいれば修行場には事欠きませんでしたしね。」 「じゃあ、行こうか。魔法爺のところへ。」  そうして一行は再び魔法爺の家に向かった。 「ここでこいつを使うんだよな。」  ヨキは先ほどナジミから受け取った鍵を取り出した。 「うん、たぶん。」  オルソスは自信なさげに相槌を打った。  まあここで自身ありげに頷く者などいやしないが。  かしゃん、と軽い音をたて扉の鍵が開いた。 「おじゃましまーす、ってくせ。」 「失礼な奴じゃのう、人の家に入って第一声がくさいとは。」  いいながら、奥から出てきた老人は不機嫌そうだった。 「まったく、人の家を何だと思っておる。」  しかし次の瞬間、全員の意見が一致した。  説得力ねえ!!  老人の姿は口にはマスク、手には手袋、腰にはにおい消しと書いてある袋 を提げていた。 「まあ、確かにくさいがの。」 「認めるのかよ。っていねえ。」 「ほれ、これが魔法の玉じゃ、さっさと持っていってくれい。」  見事なまでにヨキをスルーしながら、老人はオルソスへ手のひらサイズの 玉を渡した。 「これが、魔法の玉。」 「うむ、使い方は魔法で火をつければドカンじゃ。威力はおそらくイオナズ  ン級はあるからできるだけ離れて火をつけることじゃな。」 「イ、イオナズン級!それはまた物騒だな。」  その響きの恐ろしさにサリナスは思わず声に出していた。  爆発系最強呪文イオナズン。使い手によってはひとつの町を吹き飛ばす威 力を誇るといわれる。 「じゃから魔法にしか反応しないようにしておる。まったく、厄介な仕事を  持ち込むモンじゃ。たく。」 「ありがとうございます。」 「礼はええ。それより生きて帰ってくることじゃ。」 「はい。」  一行は頭を下げ家を出た。

2008年6月3日    アリアハン 5.賢者ナジミ あとがき       すみません。前回から2年近くかかってしまいました。イやな      かなか思いつかなくって。       なにがって、ジジイどものキャラが!結局魔法爺さんには犠牲      になってもらいナジミ一本に絞りました。       おかげですんなりといきましたが…。なんか一人でしゃべって      ますね。まあいいですが。難しいですね。       まあとりあえずは良かったということで(何が?)。       最後に、こげな小説を5話も読んでいただきお礼を述べますと      ともに、これからも宜しくお願いします。
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