「敵は魔王バラモスじゃ。じゃがしかし、世界はまだ魔王の名すら知らぬも  のも多い。そして、 魔王に挑んだものは誰一人帰っておらぬ。その事を  承知のうえでなお魔王に挑もうというのなら、ラルフ・ナロ・キシア・ア  リアハンの名において、オルテガ・アレフ・クーガーヶ一子、オルソス・  アレフ・クーガーに命ずる。このアリアハンを立ち、魔王バラモスを討っ  て参れ」 「ははっ、必ずや、魔王バラモスを討って参ります。」

2.再会と出会い

 威厳に満ちた王の言葉を受け、オルソスと呼ばれた若者は力強く、返事を 返した。 「うむ、良い返事じゃ。」  王は満足そうに頷くと、 「旅は辛く長いものとなろう。危険も多くつきまとう。命を落とすやも知れ  ん。あの、オルテガさえも志半ばで果ててしもうた。」  王の話は続く。 「オルテガは一人で旅立った。そして、死んだと伝えられた場所へもオルテ  ガは一人で向かったそうじゃ。」  王はそこで一旦話をきった。おそらくその時の事を思い出しているのだろ う。 「そこでじゃ。今回の旅においてお主とともに旅立ってくれるものをこちら  で選んでおいた。アリアハン神官長ハネス・リーオ・マイロヶ末子、神官、  ヨキ・リーオ・マイロよ。入ってきなさい。」 「はい。」 「えっ!」  王の呼んだ意外な人物に驚くオルソスの前に現れたのは、長身の僧侶姿を した若者であった。 「神官ヨキ・マイロ、参りました。」 「うむ、話は聞いておるな。ヨキ・リーオ・マイロよ、今の通りだ。オルソ  ス・アレフ・クーガーの旅に同行し、彼の者を助けよ。」 「ははっ。」  驚くオルソスをよそに、話は進んでいく。 「旅には何かと先立つものもあろう。ここに気持ちばかりじゃが、旅の資金  を用意しておいた。ノイス、アレを持ってきてくれい。」 「はっ。」  ノイスと呼ばれた大臣が持ってきたのは、庶民なら一生遊んで暮らせるほ どの金だった。 「ははっ、ありがたく使わさせて頂きます。」  ようやく事態へと追いついたオルソスはなんとかそれだけ返事を返した。 「また、各国の王にもお主の事を伝えておいた。困った事があったら、最寄  の国へ行くが良かろう。ノイス、アレを。」 「はっ。」  次に運ばれてきたのは、真ん中に青い宝石の付いた、王冠の様な代物であ った。 「これは、オルテガに授けたものと同質のものじゃ。おそらく、お主にも似  合うであろう。各国の王への目印みたいなものと思うてくれ。」  王は自身、オルソスへこの額飾りを被せた。 「では、行くが良い、勇者オルソスよ。バラモスを倒し、世界に平和を。」 「ははっ。」  自らを案じ、旅の仲間を付け、旅を円滑に進めるため、資金を用意し、各 国への協力を要請してくれた、王の厚意に感謝しながら、オルソスはヨキと ともに王の間を辞した。                  *  * 「しかし、驚いたなぁ。」  城からの帰り道、オルソスは久しぶりに再会した友人ヨキへ向って言った。  ヨキの実家であるリーオ家は、アリアハンでも数少ない僧侶の家系で、代 々神官長を勤め、オルソスが生まれたクーガー家とは祖父の代から親交が深 かった。自然、同年代であった二人は会うことが多く、また息が良く合った のか一緒に遊んでいた。当時からすでに彼の背は高かったが、また一段と伸 びたようだ。 「ヨキってさ、確かランシールに行ってたんだよね。」 「ああ。」  アリアハンとランシールはお互い島国という事もあり国交が深く、人材を 交換し合っていた。  ヨキは3年前にランシールへと留学していたのだった。 「いつこちらに?」 「一ヶ月前にアリアハンから使者が来てさ、お前の旅に同行してくれないか  って。」  ヨキは当時の事を思い出しながら言う。 「俺も初めアリアハンから使者が来た時は驚いたよ。なんせまだ修行の最中  の奴に言ってくるんだものな。まっ、二つ返事で承諾したけどな。その後  が大変だったんだぜ。あそこからここまで船で一月かかるからさ、すぐに  帰り支度して、昨日着いたって訳。」 「…それは大変だったね。」 「だろ。」 「アレ?でも神官って事は修行は……。」  確か先ほど王はヨキの事を神官と呼んでいたはずだ。しかし彼の話からす るとまだ修行中の身で神官は名乗れないはずだ。 「ん?ああそのことか、終わったぜ。」 「凄いなぁ。たったの3年で神官になるなんて。」 「形だけ、な。」  さして興味が無いとばかりにヨキはいったが、通常神官になるには十年は 必要だといわれている。それは、世界共通の位であるからだ。  ランシールで神官になれる人が今どれだけいるか。  だが、ヨキが少し皮肉気に言った一言がオルソスには気になった。 「形だけって、どう言う事?」 「何でも、神官で無いと入れないような場所もあるらしいし、それに…。」  ヨキはそこで言葉を濁した。たぶん父の圧力があったと言いたいのだろう。  神官にはなったけれど決して自分の力ではない。例え必要な事だとしても おそらく自らの力で神官になりたかったはず。ヨキの事を思うとオルソスは 少しやるせない思いがした。  そんな親友の様子を見たヨキは話題を変えた。 「そういえば俺たち今どこに向っているんだ?」  オルソスが先に歩いているのでなんとなく付いて行っていたがまだどこに 行くのか知らされていなかった。 「あれ?言ってなかったっけ。ルイーダの酒場に向ってるんだ。どうせなら、  もう一人か二人、一緒に行ってくれる人を探そうかと思って。」 「なるほど、確かに旅慣れた人が一人居れば心強いしな。」  ルイーダの酒場とは、アリアハンの北西に位置する冒険者ギルドの本部の ことである。旅へ出るのが危険となった今、冒険者達はギルドへ立ち寄り仲 間を見つけるのだ。  ちなみに、アリアハンに来るには船を使ってくるしかない上、海上の魔物 は陸よりも強力なため、ルイーダの酒場にくることは冒険者達にとって一つ の関門とも言えた。  そのような関係から、ルイーダの酒場に来る事が出来るのは熟練した冒険者の証なのだ。 「でも、俺達と気が合う奴じゃないと駄目だぜ。」  当然だ。気を使いながらの旅なんて冗談じゃない。そんなことなら二人で 旅をしたほうがマシというものだ。 「分かってる。あっ着いた。」  彼らの前にそびえ立つ古い建物こそ、冒険者ギルドの総本山、ルイーダの 酒場であった。  ルイーダの酒場は、夜は普通の酒場、昼間は冒険者ギルドとして運営され ている為、朝から夜遅くまでにぎわっている。 「あら、いらっしゃ〜い。」  オルソス達が扉を開けると女の人が目の前に立っていた。  見るからにノリの軽そうな女性だ。遊び人と言う言葉がよく似合う。  しかし、彼女はオルソスをジロ〜っと見るなり、訝しげな顔をして 「坊や、あなたいくつ?」  と聞いてきた。  オルソスが人より童顔な上あまり背が高くないため、子供と思われたらし い。  ヨキはというと顔を真っ赤にしながら笑いをこらえていた。 「今日で、16になりました。」  オルソスの方は慣れたもので、顔色一つ変えることなく、淡々と切り替え していた。 「・・・?」  女性の方は相手が16と聞いて信じられない様子で、 「うっそぉ、16なのぉ?本当に?」  と、まともに驚いていた。 「本当よ、ミランダ。」  店の奥から、柔らかな声が響いた。 「彼こそ今日のメインゲスト、オルソス・クーガー。オルテガの息子よ。」 「なっ!?」 「アレが・・・・・・。」 「ほう。」  女性の声をきっかけに、店内のざわめきが一層大きくなった。と同時に奥 から背の高い(少なくともオルソスよりは)青い髪の女性が出てきた。  おそらく、彼女こそがここの女主人である、ルイーダであろう。  再び店内に柔らかい声が響く。 「ようこそ、ルイーダの酒場へ。お仲間をお探しに?」 「ええ、そうです。」 「それじゃあ、話をしたい人がいたら、ミランダに言うといいわ。あの娘、  ああ見えて店の客、全員把握してるから。」  女主人ルイーダは信じられない事をさらりと言い、再び店の奥へと戻って いった。 「・・・・・・、で。具体的にはどんな人を仲間に考えてる?」  ルイーダがカウンターへと戻った後ヨキはオルソスへ問いかけた。 「そうだね。ヨキは法術が使えるんだよね?」 「ああ、そこそこな。」 「だったら、魔術が使える人と旅慣れた人がいいかな。後は前線で戦えそう  な人。」  この組かたなら回復と攻撃、補助に分担でき、パーティーとしてはバラン スのいい組み方と言える。 「なるほど、俺は何をすりゃいいんだ?」 「うん、攻撃呪文の得意そうな魔法使いを探してくれないかな。僕は前線で  戦えそうな人を探すから。」 「分かった。」  二人は言葉を交わした後、店内の客へと目を向けた。                  *  *  しばらく何も話さずに店内を見回していたが、やがて、二人は同じテーブ ルへと目を向けていた。 「同じテーブルだね。」 「都合がいいな。」  そのテーブルには、大柄で鎧を見に着けた、いかにも戦士風な男と、魔法 使い以外には持ち得ない杖を立て掛けている女性がいた。  他にも彼らの様な人はいたのだが、雰囲気がそのテーブルだけ明らかに違 っていた。  特に、戦士風の男から感じられる闘気は、オルソスが今まで感じた事の無 いほど圧倒的であった。 「決まったかしらん。」  二人の目線が定まったのを見計らったように、ミランダが話しかけてきた。  オルソスはヨキは目で確認しあった後、目星を着けたテーブルに顔を向け、 「はい、今の二人と話がしたいのですが。」 「いいわん、ついていらっしゃいな。紹介してあげるからん。」  ミランダは相変わらず緊張感の無い声でそう言うと、人を掻き分けながら 二人をテーブルまで案内した。  こちらに気づいたのだろう。男の顔がこちらへ向いた。 「ミランダ、何の用だい。」  発している雰囲気とは裏腹に、意外に男の声は若かった。 「ええ、この二人があなた達に用があるんですって。」  ミランダはオルソス達のほうを手で指しながら、 「紹介するわん、こちらの少年がオルソス、神官君がヨキよん。」 「初めまして、オルソス・クーガーです。」 「ヨキ・マイロです。」  ミランダに紹介され二人は軽い挨拶をした。  テーブルの二人は、 「初めまして、私はサリナス。」  まず男が立ち上がり、 「私はスノウよ。」  続いて女の方がどこか気品を漂わせながら立ち、挨拶した。  女性の方も若かった。二人ともオルソス達よりは年は上であろうが、おそ らくそんなには離れていない感じだった。しかし、サリナスとスノウ両者の 放つ雰囲気、特にサリナスのそれは歴戦の猛者である事を容易に連想させる ほどのものであった。 「それでは〜ごゆっくり〜。」  ミランダはやはり緊張感の無い声でそういうと、いつの間に持ってきたの か、水と四人分の軽食を置いて去っていった。 「さて、私達に何の用かな?」 「バラモス退治について来てもらいたいんです。」 「単刀直入だね。」 「………。」 「どうしてだい、君はまだ16になったばかりだろう?何故わざわざ死にに行  くようなまねを?」 「…父と。」  オルソスは何か言いかけたが、言いよどみ、 「いや、父の敵だから。」  言い直した。 「……オル。」  ヨキはオルソスが何を言いかけ、止めたのかおよその察しがついた。きっ とあの人の顔を浮かべたに違いない。幼馴染の兄であり、自分たちにとって も兄のような人であったあの人の事を。 「だから、行きたいんです。でもおそらく私一人では無理です。」 (えっ?)  ヨキはその言葉に何か違和感を感じた。 「それに私達には旅の知識がありません。」 (コイツ)  何かが違う。 「それで、我々について来て欲しいと?」 「そうです。」 「ふぅ、では一つだけいいかい?」 「なんです。」 「私が断ったらどうするつもりだ?」 「仕方ないですから、二人で行きます。」 「……二人で?」 「はい。」  オルソスは笑顔でうなづいた。  だけど、やっぱり何かが違う。 「・・・・・・。」 「・・・・・・。」  サリナスとオルソスはしばらく無言で睨み合っていた。  沈黙が訪れ、緊張が走る。  だが、答えは意外な方向から帰ってきた。 「では、旅の同行を、こちらからお願いするわ。」  一同は一斉に声のした方へと向いた。 「スノウ…。」 「かまわないわね、サリナス。」 「……分かった。」  ややあって、サリナスは頷いた。 「よろしく、オルソス。」 「こちらこそお願いします。」  ヨキは内心、ほっとした。先程までの雰囲気がどうも苦手だった、という のもあるが、別の理由もあるのだが。  まあ、それは置いておこう。 「となると、次は・・・・・・。」 「なにができるか、というところですね」 「オル、お前、人のセリフを・・・・・・・・・。」 「ヨキからお願いできるかな?」  オルソスに台詞を盗られ、凹んだヨキであったが、すぐに気をとり直した。 「・・・・・・・・・はぁ、じゃ、まず俺からで。」  確かに、パーティーを組む上で、誰が、何を出来るのか、把握しておく事 は基本といえる。  確実に生死に関わってくる問題でもある。 「俺が使えるのはですね、法術の基本は大体使えます。後は、そうですね、  槍も少し使えます。前に出てバリバリに働く、というわけには行きません  けど。」 「なるほどね。」  この言葉にサリナスは感嘆の声を上げた。というのも、僧侶や神官といっ た魔法を使う職業のものは、極端に肉弾戦に弱い事が多い。武器が使えると 言う事は結構貴重な存在なのであった。  このことは、魔法使いにも言えることでもある。 「次は私だな。」  サリナスは、そう前置きして、 「私は大抵の武器が扱えるが、一番得意なのはやはり剣だな。力もそこそこ  あるつもりだ。前線での戦いなら任せてくれ。」 「次は、私ね。」 「私は魔術を少々といった所かしら。残念ながら近づいて戦うのは苦手だわ。」  サリナスに続いてスノウが発言した所で、  ダンッ!  と、4人のテーブルに大きな手が叩きつけられた。 「おい、どう言う事だ。ここに来れば勇者の旅に同行できるって聞いて、わ  ざわざこの辺境まで来たんだぜ。」  どうやら自分達が無視された事に腹を立てた連中が文句を言いに来たらし い。  見上げてみると同じように不機嫌な顔をした連中が四、五人そこへ立って いた。 「済みませんがあなた方と一緒に行く気はありません。」  ヨキは違和感を感じて、発言の主、オルソスの方を見た。 「はっきり言って、あなた方が一緒に来ても足手まといですから。」  しかし、この言葉はかえって彼らの感情を刺激したようだった。彼らは、 オルソスにむかっていき、 「んだとてめえ、この。」  だが、そんな彼らを制した者がいた。 「やめておいたほうが懸命だな。それ以上前に出ないほうが身のためだ。」  サリナスは、指で何かを指し示していた。  彼らは、サリナスが指している方へと目を向け、息を呑んだ。 「っ!!」  いつの間に抜いたのであろうか、一本の剣が一人の腹の手前で止まってい た。  後もう半歩、前に踏み出せばその刃は彼の腹に刺さっているだろう。  彼らはもう一度、オルソスを見、戦慄した。  そこには、どう見ても今日16になったばかりとは思えないような氷のよう な表情をした、独りの戦士がいた。  ここにきて漸く自分達が決して敵わない相手だと気づいたようだ。  そして一言、 「お断りします。」  それで十分であった。 「そろそろ出ませんか。昼食も食べ終えた事ですし。」  彼らが去った後、オルソスが言った。  サリナスもこれ以上ここに用は無いと判断したのだろう。 「そうだな。ミランダ、たのむ。」 「ハイハイな〜。お勘定ね。」  先ほどの様子を見ていながらしかし、ミランダは変わりなく陽気だった。

2006年3月7日 アリアハン 2.再会と出会い あとがき       イヤ〜、前回から随分と間が空いてしまいました。難しいなぁ。       最後の方はだんだ読みづらくなってしまいました。反省。       エ〜と、今回は題名のとうり、出会いがテーマと言う事で、新      キャラバンバン登場してます。       何か一気に出てきました。       結構気に入っているのがミランダさん。何か喋ってくれるキャ      ラがあまりいないので登場させたのですがそもそもあまり出番が      なかった。       陽気な人が欲しかったのです。       今回、オルソスが当初の予定よりも多く喋ってくれています。      何故?       ウ〜ン、モノを書くのって難しい。       以上、相変わらず何を言いたいのか分からないあとがきでした。
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